杉並区の某所で借地権の土地の有効活用のご相談に乗っている。
様々な要因があり、容易でない計画だ。
この敷地は、私が大変お世話になった設計事務所の所長Tさんが奥様に残したものだ。
Tさんとは、十数年前にマンションの共同建替え事業をご一緒した。
Tさんが癌で亡くなったのは、この共同建替えのプロジェクトの最中だった。
当時未だ20代だった私は、大変お世話になり勉強をさせていただいた。実務的な事柄よりも、関係者との関わり方、問題が起こったときのスタンスの取り方などを多く学んだ気がする。
私が常に思っている、建築プロジェクトは「箱」を作れば良いのではなく、それを使う「人」、つくる「人」を大事にすべきである、という考えはこの頃に私の中で明確になった。
当時、良く夜遅くまで打ち合わせ等をしては酒、飯をご一緒した。正確にはおごっていただいた。寿司屋などで勘定をする際に、私も財布を出してみるが、いつも支払いはTさんだった。
「では、出世払いで!」と私が財布をしまうと、
「出世払いというのはね。きちんとした人はいないんだよ」と暖かい笑顔で嗜められた。
10年余りが経ち、私はあまり出世しておらずまた、今回が出世払いの機会とはいえないかもしれないが、今回、難易度の高い計画を纏め上げることによって、ささやかでも、Tさん(Tさんが心から愛していた奥様)にお返しができれば幸だと思う。
石川修詞