2002年03月04日(Mon) 住まいの匂い

子供の頃、公団の団地に住んでいた。昭和40年代前半に建てられた5階建てで1棟に20世帯が入る50平方mくらいの3DKだ。大規模な団地だったので小学校の遊び仲間の多くはこの団地の世帯だった。

いろんな「ウチ」に遊びに行った。中の間取りはほぼ何処も一緒だったにも関わらず家具の配置や置いてあるもの、色調、使い勝手などは様々にバリエー ションに富んでいて面白かった。それらのウチ々は様々な匂いを湛えていた。嗅覚に感じるものと、その家族が織り成す雰囲気、生活観の両方である。

あるウチでは仏壇の線香の残り香が絶えることなく、ばあさんが大事にしている糠床の香りがほんのり漂っていたし、ある一人っ子のウチでは、家具のセ ンスもよくきれいに整頓されていて柑橘系の芳香剤の香りがいつも漂っていた。使っている洗剤やよく食べる食べ物や母親が使うミシンやそのほか色んなものが 混ざり合ってそのウチの匂いを形成していたのだろう。また、いつもは母親しか見かけないウチにたまに父親がいたりすると、いつもと雰囲気が違っていて匂い も異なることが多かった。特に気にした事もなかったが、おそらく我が家にも独特の匂いがあったに違いない。

時を経て、仕事として住宅に携わるようになった私は新築時の住宅と、その後暮らしが始まったウチに上がらせていただく機会に恵まれた。コーポラティ ブハウスなどの注文住宅の場合には新築時といえども(特にその施主の個性を重ね合わせてみると)個性がにじみ出た匂いのする素敵な住宅が出来上がっている 事が多い。でもそこで生活が始まってからもう一度お邪魔するとその匂いは比べ物にならない程強くなっていて、正に人それぞれだな、と思う。生活を始めてみ ると意外と使い勝手が悪かったり、もっとこうすれば良かった、などのお話を聞くこともあるが、皆さん自分にあったウチに大きな喜びを感じていらっしゃる。 これからも多くの「匂いのするウチ」に関わっていきたいと思う。

匂いといえば、新築住宅の匂いは、待望のマイホームが出来上がった喜びから気持ちの良いものに感じられる事もあるけれど、刺激臭がきつい場合は生理 的に辛い事もある。建材などに含まれる化学物質によるものでこれに過敏な人が急増している。シックハウス症候群に対する関心が寄せられるようになって、も う10年余りではないだろうか。高度成長下で日本の住宅はマスプロダクトされるようになり、家づくりの大切な要素を見落としてきたのは否めない。そしてそ のことに気づくのが遅かったことも否めない。 この問題が顕在化してきた背景には建物の高気密化も関係している。高気密高断熱化によって居室内部に化学物質が滞留してしまうのだ。

この程、シックハウス症候群対策として法整備が進められている。パブリックコメントを経た上で施行される予定だ。

有害な化学物質を軽減させていくことについては大賛成だが、断片的な規制では意味がない。本来は供給者側のモラルによって本来は改善されることが望ましい。

認定の取れている建材しか使えない、(或いは使いにくい)となると、自由な建築の制約にもつながる。様々な「匂い」のする住宅の足かせになってはならない、と思う。

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